株式会社井上本店 故井上平祐社長に学ぶ(1)

奈良県の醤油組合の前理事長井上平祐氏(株式会社井上本店社長)が3月31日お亡くなりになりました。4〜5年前醤油組合の近畿ブロック青年研修会のときに工場を見学させていただきお話を伺って以来、井上理事長の醸造に向き合う真摯なお姿とお考えに大変多くのものを教えられてきました。ご冥福をお祈りするとともに、心から感謝を申し上げます。

弔問に訪れた際、ご家族から前理事長が京阪ジャーナル社の月間AGORAに連載され、それをまとめた『醤油に想う』という小冊子を頂戴しました。早速拝読しながら改めて井上理事長の『醤油づくり哲学』に触れさせていただきました。

すこし専門的ですが、ぜひ消費者の方々に知ってほしいと思い、その一部を紹介します。

醤油に想う 株式会社井上本店 井上平祐 『月間AGORA』から

プロローグ
(抜粋)
昭和30年代業界は大きな発達期?を迎えました。脱脂大豆の処理技術が改善され、今まで原料の旨味成分の利用率が65〜70%であったのに対し80%以上に改善されました。また速醸技術が開発され、今まで熟成に1年以上かかっていたのが4ヶ月でできるようになりました。技術の進歩は製造工程の中で、手間と無駄を排し、利用率を向上させ、より良くより安く製品を提供することに成功し、社会に貢献したように見えます。

但しそこには重要な忘れ物があります。醤油の醸造はただ単に旨味をつくるのが目的なのでしょうか。醸造という強い微生物の関与は、もっと深いデリケートなものを含んでおり、それこそが醤油の真の美味しさの源であります。醤油の熟成は、1cc中数千万ものしかも無数の種類の微生物が、生きるための環境つくりに永い間努力し合った結果です。

アメーバーの作る蛋白質と人間のそれとは95%同じなのです。微生物の(但しある一定の環境の中で)作ったよい環境は人にも良いのです。具体的には微生物は生きるために、あらゆる生理活性物質をつくります。それを頂くのが醸造です。人は体に良いものを美味しく感じます。医食同源です。その美味しさが醤油の味です。単なる旨味ではありません。

最近の研究で解りかけてきました。然し今でも業界は、醤油は旨味調味料であると貶めています。スーパーで水より安く売られている姿は、業界が先輩から遺された貴重な遺産を貶めている姿です。
(略)